相続手続きに関してプロの覚え書き

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遺産の現金を得る手段 遺言作成の注意すべきケース

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遺産の現金をすぐ使いたいのですが・・

被相続人がなくなり相続が始まると、不動産、動産のような被相続人の財産は遺言で特別の指定がある場合を除き、原則として相続人間の共有になります。
この共有状態を解消し、相続人の誰がどの財産を取得するかを決める手続きが遺産分割です。
遺産分割は相続人間の協議で行われ、協議ができないときは家庭裁判所に調停、審判の申し立てをします。
さて現金についてですが、裁判例により、その性質は債権というより、不動産や動産に近いとの見方から、遺産分割が必要であるとしています。

1992年の最高裁判所判決は、「相続人は、遺産分割までの間は、遺産である現金を保管している他の相続人に対して、自分の相続分に相当する現金の支払いを求めることはできない」としました。

そこで質問者の取り得る手段としては

  1. ほかの相続人に事情を話し現金についてだけ先に分割協議を成立させる。
  2. 協議ができないときは家庭裁判所に調停または審判の申し立てをする。
  3. それでは間に合わない場合は、現金その他の遺産に対する自分の相続分をほかの人に有償譲渡し、譲渡代金として現金を得る。
  4. 相続人としての地位そのものともいえる相続分全部をほかに有償譲渡し現金を得る。
    といった選択肢があります。

 

 相続財産とは?

遺産とはなんでしょうか?

  1. 資産ー現金、不動産、動産、債権など
  2. 債務ー借金、損害賠償義務、保証債務、買掛金、預かり品の返還義務など

上記二種類の遺産を明確にするために遺産目録を作成します。
ちなみに相続税の申告が必要な方は、必ず遺産目録を添付しなければなりません。

  1. 単純承認(民法920条)
    被相続人の権利義務を全面的に承認する。
  2. 相続放棄同(939条)
    はじめから相続人とならなかったことになる。
  3. 限定承認(同922条)
    相続財産の範囲で、被相続人の債務などを弁済すればよい。

 

死因贈与

死後に財産を贈与するとの合意が認められると、遺言とは別に、遺言者が死んだら財産を贈与する契約が成立しているとみることができます。このような契約を「死因贈与契約」といいます
死因贈与契約は口頭でも、書面でも合意があったことが証明されれば認められます。書面は筆跡などで本人が書いたものだと分かれば効果的です。無効の遺言書も仮に裁判になれば、書面として扱われることがあります。口約束の場合は証人が必要でしょう。


経営者が妻に、死後会社の権利などを遺贈する遺言を書きましたが、押印がなく無効になりました。しかし、生前遺言書を妻に渡したとき、妻も贈与に合意していたので死因贈与契約が認められたという裁判例もあります。

無効の遺言が死因贈与に転換される4要件

  1. 遺言の内容が財産の遺贈であること
  2. 遺言者が財産を譲り受けるものに遺言の内容を告げていること。
  3. 財産を譲りうける者が贈与を承諾していること。
  4. 上記2と3が証明できること

 

遺言で不動産を「遺贈」された場合

質問:亡くなった父が長男の私に「遺贈する」と遺言書に書いた不動産があり、このほど移転登記しました。すると、相続の場合よりも高い登録免許税を払わされました。受取人が相続人であっても、この場合は相続ではなく、遺贈とみなされるのでしょうか?

回答:遺贈は遺言による財産の無償譲渡です。遺贈は相続人、相続人以外のいずれに対してもできますが、相続させる遺言は相続人に対してしかできません
受取人が相続人だった場合、遺言の文言からみて遺贈であることが明らかであるか、もしくは遺贈と解釈すべき特別の事情がない限り、相続させる遺言とみるべきだという最高裁判決があります。
財産を「与える」とか「譲る」と書かれた遺言であれば、多くの場合、相続させる遺言と解することができると思います。
しかし、質問者の場合、「遺贈する」と書かれているので、たとえ相続人であっても、判例では遺贈としか解釈できないとされています。

不動産の遺贈の場合、相続に比べ、以下の4点で受取人には不利になります。

  1. 遺贈による所有権移転登記が単独では申請できず、ほかの相続人または遺言執行者の協力が必要
  2. 登記の時に支払う登録免許税が、現在の税率では相続の場合の五倍になる。
  3. 対象財産が借地権・借家権の場合、遺贈による権利移転について、貸主の承諾が必要
  4. 対象財産が農地の場合、権利取得に農業委員会または都道府県知事の許可が必要になる。

遺言書の文言一つで、意図しない負担を相続人に与えてしまうことにもなるので、気をつけましょう。

(2008年2月24日 日本経済新聞コラムより 回答 公証人 北野 俊光)